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2人の作曲家の人生の困難な時期に書かれたヴァイオリン協奏曲
第二次世界大戦中、ポーランドの人々はナチス・ドイツの占領軍によって残酷に抑圧されました。ポーランドの芸術家は、国の文化的アイデンティティを消滅させることを目的としたゲシュタポによって監視されていました。ルドミル・ルジツキ[1883-1953]は、1900年代初頭に歌劇『ヘンゼルとグレーテル』の作曲家であるフンパーディンクに師事しました。第一次世界大戦後、ポーランドがロシアから独立したとき、彼は自国の音楽を活性化しようと努めた作曲家グループ(シマノフスキを含む)のメンバーでした。彼は、悪魔とファウストの協定を結んだ16世紀の貴族の物語のバレエ音楽『パン・トヴァルドフスキ』(1920年)で特に成功を収めました。
ルジツキは、1944年の夏にヴァイオリン協奏曲の作曲に取り組みました(ワルシャワ蜂起は8月上旬から10月上旬に行われています)。最初にピアノとソロ・ヴァイオリンによるヴァージョンでスコアがほぼできあがり、オーケストレーションを完了する必要がありました。ソロ・パートの技術的面について、名ヴァイオリニストであったヴワディスワフ・ウォツニアクと時間を過ごしていましたが、彼と家族がナチス軍から危険にさらされていることがわかり、ルジツキはワルシャワから脱出することを決心し、スーツケースに楽譜をしまい庭に埋め隠したのでした。彼の家は最終的に破壊され、戦後、ポーランドの首都の南西約300kmにあるカトヴィツェ市で教鞭をとっていたルジツキは、この協奏曲の楽譜を失ったことに失望していました。彼は1953年に亡くなりましたが、その後、埋葬されたスーツケースが、ワルシャワにあるルジツキの家の廃墟を片付けていた建設作業員によって発見され、そこに入っていた楽譜はポーランド国立図書館のアーカイブに届きました。
ヤヌシュ・ヴァヴロウスキはこの協奏曲について「ルドミル・ルジツキのヴァイオリン協奏曲の楽譜の断片に最初に出会ったのは数年前のことです。この素晴らしい作品はすぐに私に語りかけ、灰から立ち上がるフェニックスのように生まれ変わり、世界中の観客に楽しんでもらうべきだという考えが頭に浮かびました」と話しています。研究者の助けと多くのアーカイブの精査により、彼は協奏曲のピアノ・リダクションによる楽譜と、オーケストレーションされたフルスコアの最初の87小節を見つけることができました。一部の音楽家は、すでにピアノ・リダクションのみに基づいた協奏曲を完成させていましたが、ヴァヴロウスキはピアニスト兼作曲家のリシャルト・ブリーラと協力し、オーケストレーションされた断片をもとにし、新たに作品の再現に着手しました。彼はまたソロ・パートを編集し、ヴァイオリニストが完全に再現できる奏法に収まるように改訂しています。
「このプロジェクトには数年かかりました。ロジツキの当初の考えに可能な限り近い・・・私にとって、この協奏曲は戦前のワルシャワのエネルギーと生命に満ちていていることについて、作曲家は思い起こそうとしていたと思います。そして、彼が1944年に書いたように、この前向きなエネルギーを伝えています。ナチスの大砲が街に降り注いだ非常に暗い時期でした。私たちの文明の激動の歴史と不安の時代を振り返ると、文化と芸術は常に人類に不可欠な役割を果たしてきたことがわかります。悲しい現実に直面したアーティストたちは、意識的に創造力を駆使して、希望と喜びの両方をもたらす作品を創造してきました。これは、このアルバムに録音された2つのヴァイオリン協奏曲のメッセージです。どちらも、作成者の生活の中で非常に困難な時期に書かれました。チャイコフスキーは、彼の結婚の苦痛な崩壊の後、作曲の避難所を探していました。2人の作曲家は、異なる時代に書いていましたが、多くの共通点がある作品を作成しました。チャイコフスキーが1878年に作曲したヴァイオリン協奏曲は、今日私たちが知っている映画音楽のスタイルに似た作品を作曲した最初の作曲家の1人です。ルジツキの作品は、ガーシュウィンやコルンゴルトを思い起こさせます。ハリウッドを感じつつ、同時に独特のスラブの味を保持しています。ルジツキは、チャイコフスキーの65年後の作品ですが、より大規模なオーケストラを自由に使用しつつ、チャイコフスキーと同様の方法でオーケストラを背景にソロ・ヴァイオリン・パートを描いています。ルジツキの協奏曲は最も暗い時代に書かれた作品ですが、壮大で豪華なロマン派後期の様式による前向きなエネルギーを持っていることは信じられないことです。」と、ヴァヴロウスキは語っています。
ルジツキの作品は6人以上の打楽器奏者を必要とし、「詩人の心のこもった口調を持つ名手」と呼ばれるヴァヴロウスキの芸術的個性に非常に適しています。このレコーディングはロンドンで行われ、のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と、同じポーランド生まれのグジェゴシュ・ノヴァークが指揮を務めています。
ヤヌシュ・ヴァヴロウスキは、1982年、ポーランドのコニン生まれ。6歳からヴァイオリンを始め、ワルシャワ音楽院を優秀な成績で卒業。数多くの国際コンクールの入賞歴を持ち、世界中のオーケストラとも共演しています。最近ではザコパネ国際室内楽音楽祭「ハイツミュージック」の芸術監督を務め、またワルシャワのショパン音楽大学の講師も務めています。現在、ポーランドで最も実力、人気を持つヴァイオリニストです。
ここで使われたヴァイオリンは、戦後のポーランドとして初のストラディヴァリウス。バッハが生まれた年と同じ1685年製のこの楽器は、これまで私的なものであり、記録になかったもので、まったく謎に包まれた楽器といわれています。最近この楽器を購入しヴァヴロウスキへ貸し出した後援者は、ポーランド独立100年を称え、この楽器を「ポロニア」と名付けました。(輸入元情報)
1. ルジツキ:ヴァイオリン協奏曲 Op.70
2. チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 Op.35
ヤヌシュ・ヴァヴロウスキ(ヴァイオリン)
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
グジェゴシュ・ノヴァーク指揮
録音時期:2019年11月18,19日
録音場所:ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)