本商品は、1862年にパリでJ Hetzelによって出版された記念的な書物(Les contes de Perrault. / dessins par Gustave Dor ; prface par P.-J.Stahl)の1869年版からの崩しからまとめられた「親指小僧(親指トムとして知られています)」の版画セット11点です(本商品に含まれるのは【写真2】~【写真9】の11点のみで、【写真1】、【写真10】は参考資料であり、商品には含まれませんのでご注意ください)。
ドレは当初、挿絵の効果をより高めるために白色のシートに直接黒色のイメージを刷るのではなく、額縁のようにグレーの領域を作りそこに物語の世界をと考え、厚手の簀の目入のオランダ紙(verg de Hollande)を台紙にして背景用の中国紙(と言われるteinte papier de Chine)貼り合わせてその上に黒色線描のイメージを刷って作品を制作したようです。そのような技法はchine colle(シン・コレ:一般に19世紀以降の凹版の技法として知られており、日本では雁皮刷りと称されています)あるいはChineAppliqueといわれており、ドレはそのような製作品を自身の展覧会に出品したり、すでに刊行されていた作品の挿絵で行っていましたが、1862年版のごく一部もそのような挿絵入りで制作され、頒布(おそらく高価な値段で)されたとという記録があります(注1)。しかし、出品者が確認できる1862年版と1965年版は、そのようなシン・コレではなくどちらもモノトーンの2色刷りです。おそらくそドレのこだわりへの妥協が1862~1865年版の印刷によるグレーの背景刷りということになったと推測できます。現在Eコマース上に初版の1962年版が何点か出品されており、その挿絵が「シン・コレで制作された」と記述されていますが、台紙がverg de Hollandeではないのでそのほとんどが2色刷りの挿絵と考えられます。
(注1)*『CATALOGUE DEL'OEUVRE COMPLET DE GUSTAVEDORE』HBNRILEBLANC1931PARISp276
*『Gustave Dor et la gravure sur bois de teinte-Gustave Dor and Tinted Wood Engraving』Valrie Sueur-Hermel, https://journals.openedition.org/estampe/4530
*『Gustave Dor et les Contes de Perrault : du dessin au livre illustr』, https://journals.openedition.org/estampe/3414
【ドレの小口木版の製版について】
挿絵の版画は小口木版(wood engraving)という技法で作られた版で刷られていますが、『ペロー童話集』の版は通常の方法とは異なった【gravure de teinte】(注2)という技法で彫版されています。一般に木口木版の版下(彫版のための元絵)は線描を基本として描かれ、それを版木に転写して彫刻しますが、ドレの元絵は線描では無くインクと筆で緻密な濃淡のあるデッサンのようなイメージを版木に直接描きます。彫版家はそれを基づいて画家の中にある挿絵としてのイメージを、点や線の集合として具現化するという技術を超えた困難な仕事を行うことになります。このような【解釈版画】(19世紀の凹版の世界で使われた概念ですが)という方法が木口木版で試みられ大きな成功を収めたのが、『ペロー童話集』を含むドレの作品の成功の原因のではないでしょうか。また、それを実現するために制版には当時の著名な彫版者が多数参加しています。Pannemaker、frres Hliodore et Anthelme Pisan、Facnion、Louis-Henri Brevire、Louis Dumont、Emile Deschamps、Delduc、Charles Maurand、Franois Perdon、Perichon、Boetzel、Heberなどです。
(注2)【gravure de teinte】のteinteの意味がわかりにくいと思います。詳しくし知りたい方は『Gustave Dor et les Contes de Perrault : du dessin au livre illustr』Ghislaine Chagrot et Pierre-Emmanuel Moog, https://journals.openedition.org/estampe/3414のパラグラフ9、あるいは『Gustave Dor et la gravure』https://essentiels.bnf.fr/fr/video/0efbdd22-301a-406e-b6f1-f20b74561cac-gustave-dore-et-gravureなどを御参照ください。
(注4)*Gustave Dor et les Contes de Perrault : du dessin au livre illustr』Ghislaine Chagrot et Pierre-Emmanuel Moog, https://journals.openedition.org/estampe/3414に実物が紹介されています。
【本セットの挿絵について】
本セットは 『ペロー童話集』中の「親指小僧(Le Petit Poucet:親指トムLe Petit Poucet)」の挿絵11点(テキストは9頁分)です。これは9話の内でもっとも多いもので、2番目が「眠れる森の美女」(テキストは9頁分)と「ロバの皮(Peau d’ne)」(テキストは12頁分)です。テキストの量を考慮しても突出して多い事がわかりドレの力の入れようが推測できます。その中でも特に、子どもたちが森をさまよう情景が多いのも興味深いことです。