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南海の古陶磁・1安南・呉須・交趾/東南アジア各地の出土遺物を中心に現地調査を踏まえ多数の例証を用いて実像に迫ろうとするものである
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平成1年 233P程度 ゆうメール・レターパック規格外 部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。
「南海の古陶磁」に寄せて
竹内順一 我国は、陶磁器の受容の多様性においては世界一と言って良いだろう。古代の越 州窯青磁や唐三彩の輸入をはじめとして、中世に中国陶磁器(天目・青磁染付) の多量な移入があり、近世初頭には朝鮮半島からも茶の湯の為の陶器がもたらされ た。この招来陶磁器の系譜の中で最も華やかな時代は、近世期(桃山~江戸時代) であろう。中国からは景徳鎮窯の五彩(赤絵)がもたらされ、また日本もただ一方 的な輸入の時代を脱して、日本人好みの意匠を中国側に要求した。今日古染付や祥 瑞と呼ぶ青花磁器には、我国からの注文製作による文様が出現している。この注文 製作は、李朝時代の朝鮮にも及び、茶人の好む侘びた風情の茶碗が移入され、御本 手(原義は見本の意)という言葉が定着したほどである。 興味深いのは、東南アジア諸国の焼物に対する輸入の仕方である。 それは、産地を問わず、日本人の美意識に合致するものであれば、どんなもので も積極的に輸入したことである。たとえば、桃山時代から江戸時代初期の茶の湯の 道具立てを書きとめた「茶会記」には「南蛮」という名の焼物が頻繁に記載されて いる。水指や建水(水こぼし)に多く、現存している類例を見ると、素焼のような 焼き締めの陶器であることが分かる。今日この産地はまったく不明である。「南蛮」 の名称は、恐らくこれを運んだ船-南蛮船から付けられたものであろう。
茶壺として有名な「呂宋」も同じような受容の仕方である。肩に耳が付き、灰釉 系の釉薬が美しく掛かったこの壺は、南蛮船の寄港地として知られたフィリピンの ルソン島を経由して運ばれた為に付けられた名称であって、ルソン島で生産された ことを意味するのではない。「交趾」も同様である。これは、ベトナムの中部の地コ ーチンが原義であり、焼物の産地名ではない。
ところが、近世の茶の湯の書物(茶書)をはじめとして、我国の茶人達は、この ことを曖昧にしてしまい、ある時は地名がそのまま産地を意味するかのように解釈 してきた。また江戸時代中期以来「島物」(南方諸島の焼物の意)という概念をつく り出し、東南アジア諸国や中国南部で生産された各々の焼物の特質を厳密に追求す ることを避けてしまった。
本書は、こうした近世以来の茶の湯の陶磁器の曖昧な受容に対して、安南・呉須・ 交趾に焦点を絞り、多数の例証を用いて実像に迫ろうとするものである。東南アジ ア各地の出土遺物を中心に現地調査を踏まえた本多弘・島津法樹両氏の論述には説 得力がある。そして重要なのは、我国の茶人達が愛玩してやまなかった東南アジア 交易の陶磁器の魅力を、ふたたび新しい視点で語っていることである。これによっ でお世輸入陶磁器の受容の素晴らしさを改めて振り返ることが出来るものと確信し
(財団法人 五島美術館学芸課長)
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