ちなみに84年ツアーもこの頃になるとエンジニアも要領を心得てきたようで、PAアウトのカセット・チェンジをグレッグ・サットンの「I've Got To Use My Imagination」の合間で行うようになり(笑)ディラン・パートは完全収録されるようになってきました。これは大好評発売中の『MADRID 1984 SOUNDBOARD』でも実証済み。そこで今回も同曲のパートをAudにて補完して完全収録を実現しましたが、このパートを聞くと改めて今回のPAアウトのずば抜けた音質の良さを実感させられるはず。
それにしてもこの日のディランはキレッキレ。これだけ調子のいい波にバンドメンバーが煽られないはずもなく、またバンドメンバーも理不尽ディランのバックに慣れてきたのでしょう(笑)、特にミック・テイラーは気持ちイイくらいに弾きまくっている。ライブ前半の「All Along The Watchtower」や「I And I」からしてテイラー節が炸裂していますし、後半へと差しかかる「Masters Of War」でも彼のフレーズが冴え渡る。
そうした攻撃的なアレンジの曲でのディランやテイラーの切れっぷりだけでなく、「Simple Twist Of Fate」のような曲でも演奏の力強さが際立っており、やはり名演バルセロナやパリの後だけのことはある。さらに特筆すべきはゴスペル時代の忘れ形見「When You Gonna Wake Up」84年バージョンのカッコよさ。ゴスペル期にあった小気味よいまとまりと違い、いかにも84年ツアーらしい粗削りなロック感が魅力的。ここでもまたテイラーが頑張って激しいソロを弾いている場面も聞き逃せません。
そしてこの日のキレッキレなディランの極めつけは「Every Grain Of Sand」。ここで間奏が始まるとテイラーがソロを弾き始める一方、ディランがピアノへと移って文字通りとち狂ったかの如く鍵盤を連打(ちなみにマクレガンはオルガンを担当)。これもまたこの日のディランの絶好調ぶりを如実に表すハプニングであったと同時に、過去のAudでは今一つ伝わりづらかっただけに、このやかましいほどの連打にはびっくり。
こうして今回の音質抜群のPAサウンドボードで改めて明らかになったグルノーブルでのハイテンションなディラン。これを聞いてしまうとオフィシャル『REAL LIVE』の演奏が大人しくて収録時間的にも物足りなくなってしまうほど。そんな煮えたぎった日のアンコールに相応しく、パリに続いて「The Times They Are A-Changin'」ではディランと古い付き合いのフランス人ユーグ・オーフレイが登場してボーカルを分け合います。そんな充実の一日が「Senor」で締めくくられるという変わった終わり方も面白い。84年ツアー7月の中でも文字通り知られざる名演たるグルノーブルが最高のサウンドボードで明らかに!