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art********さん
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1992年 110ページ 部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。
序
たる大河にも似た歴史の流れは、ある時は静かに流れ、ある時は澱み、ある時は急騰の 奔流となって逆巻くなど、さまざまの様相を示しながら絶えることなく続いて行きます。その流 れの中にある時、人はその実体を掴むことが困難であります。その時を過ぎて、振り返って見た 時、その大きな変化を感じとることができます。それは、あらためて、大きな衝撃と感動と感懐 とひとびとに与えます。例えば平安末のあの源平争乱の大変動期がそうでありました。
律令制度から封建制度へ、公家の時代から武家の時代へという社会変転の動きは、その動乱 の渦に巻き込まれて、必死に生きて行く人たちよりも、ひとまずそれが終わって武家の世となっ た鎌倉期において、ひとびとの回想と叙述の対象となりました。「祇園精舎のかねのこえ、諸行無 常のひびきあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を現す」という平家物語冒頭の一句は、この 物語をものした人の、その時代によせる心の表白でありました。この物語は、ただ政権の移り変 わりと争乱の事実の、客観的描写ではなく、人の世のすがたとその底に流れるものを、作者の目 と心を通して描き出そうとしたものであります。しかもこの物語の特色は、それが語られるもの としてあったことです。平家琵琶のあの旋律と諧調は、末法思想の瀰漫した平安末の世相を表 現するには最もふさわしいものであったかも知れません。
作者は信濃前司行長で、琵琶法師生佛に語らせたものというのが徒然草の記述なのですが、 おそらくは時が経つにつれて、いろいろな伝承や説話が混入して語り継がれたものでしょう。随分 数多くの異本があります。
源平の時代を書いたものには、保元物語、平治物語、源平盛衰記その他がありますが、その構 想、叙述、内容、文学的観点から、まず平家物語をとりあげるべきでしょう。ところが、このドラ マチックな世の変動を描くにふさわしい絵巻という形式のものは、記録によれば室町時代には既 に平家絵十巻としてまとまった姿をとっていたようですが、現在はありません。今日目に触れる のは、主として断片、端本、扇面画、色紙絵、屏風などの形で残ったものであります。しかし今こ こに、江戸時代につくられた、完璧ともいえる平家物語の絵巻が、本邦唯一のものとして林原美 術館にあります。かつて越前松平家に伝来したものであります。平家物語十二巻を上中下三つ ずつにわけ、計三十六巻の巻子が十二の抽出にはいって黒漆塗の箱に納められています。本文は 江戸初期に刊行された流布本によっているようです。絵巻の定石通り、詞書と画面が交互にでて きますが、書、画、装釘とも、非常に綿密な仕上げであります。附属の書付には、箱の銘書は西本 願寺門跡、外題および初巻が青蓮院御門跡、他は公家、武家、滝本坊とあり個名はすべて不明 ですが、並並のものでないことはこれだけでも判ります。古筆学研究所長小松茂美博士の綿密 周到な調査考証によりますと、この青蓮院御門跡は江戸前期の有名な能書の大家青蓮院宮尊 純法親王であり、十一人の能書によって分担で詞書が書かれております。全巻広げれば本紙だ けで計九百四十メートルに達し、絵の場面数七百五点に及ぶ大なものでありますが、その絵 の筆者については画史逸名の土佐左助となっています。彼についてはよく判りませんが、もとより その一筆ではなかったはずであります。ただその画面はまことに多彩絢爛の密画で物語の情景 をよく現し、その保存もよいため色彩も鮮やかに残り、変転極まりない平氏の興亡盛衰を中心 とした約六十年の世の動きを目のあたりに見せてくれます。絵に沿って源平争乱の時代、新しい 時代の誕生への動乱の世相と根強い仏教観に裏打ちされたひとびとの様相に目をとめていただ きたいと思っております。
林原美術館館長 大熊立治
お探しの方、お好きな方いかがでしょうか。
中古品ですので傷・黄ばみ・破れ・折れ等経年の汚れはあります。表紙小傷、小汚れ、上部薄い折れ線。10ページほど上部薄い折れ線。ご理解の上、ご入札ください。もちろん読む分には問題ありません。270532s
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