16世紀半ばのアメリカ大陸ではアンデス山脈の巨大銀山であるポトシ鉱山の発見をきっかけとして、ヨーロッパの入植者による探鉱活動が活発に行なわれていた。メキシコ中部の高地に位置するサカテカスは1540年にスペインの植民地となり、後1546年に高品位の銀と鉛鉱脈が発見されました。その2年後に複数の鉱山が正式に設立され、ボリビアのポトシ大銀山は当時の世界銀産量の約80%を占めたことに対して、16世紀から18世紀にかけサカテカス州をはじめとしたメキシコ中央高原は世界銀産量の20%を産出し、つまり当時の世界ではほぼすべての銀資源はラテンアメリカから産出されました。このような膨大な銀資源は当時世界の金銀複本位の通貨制度に計り知れない衝撃を与え、特に東アジア地域は古くから銀本位を採用し、日本の場合は金貨より銀貨の価値が高い時期もありますが、メキシコやアンデス山脈などのラテンアメリカから採掘された銀資源が鋳造された銀貨として大量に流入し、最終的に日本だけでなく世界通貨としての銀の役割は20世紀初頭に完全に消滅され、貴金属製品へと変貌しました。サカテカス州の北西部、デュランゴ州との州境に位置するサン・マルティン(画像8)には古くから判明された銀鉱脈が存在し、1820年代のメキシコ独立以降には正式に開発された銀山で、主に古い時代の露天採掘された酸化鉱床と近代採掘設備が整備された1948以降に開発された黄銅鉱、斑銅鉱などが含まれる斑岩硫化鉱床から銀が回収され、鉱山は2000年代に閉山しました。こちらの標本はサン・マルティン鉱山からの古典髭銀標本、メキシコ鉱物の世界においてその右に出る者はいないほどのメキシカンコレクションを築いた人物、1960年代から1990年代に活躍し、ツーソンショーにて数回の受賞歴を持つ上の世代のトップ級コレクターであるウィリアム・デイヴィッド・パンチナー氏から引き継いだ古い標本、自然銀の最も求める結晶形態である髭銀は長さは5センチの立派なサイズに成長し、古典標本でありながら大事に保存されたことによって結晶はほとんど黒変せず、自然銀の独特な渋い金属光沢が輝き、人類の鉱業において重要な役割を果たした大銀山地域からの歴史的な古典髭銀標本です。パンチナー氏は天文学を研究する学者で、鉱物の領域では特にラテンアメリカの鉱物を熟知し、1987年に著書【Minerals of Mexico】を出版しました(画像9)。さらにパンチナー氏はサカテカス州に位置する数多くの廃棄された古い鉱山や露天鉱場を標本採集地として復興させた人物でもあり、現在のmindatやMineralogical Record誌が出版したメキシコ鉱物特集に書かれるサカテカス州の産地詳細はすべてパンチナー氏の著書から引用されると明記しています。束ねる繊維状(画像1,6)の結晶はうねりながら晶出し、自然銀の最も求める結晶形態である髭銀標本にして得難い5センチに成長しています。標本の保存に気を配り、結晶の先端以外の部分はほとんど黒変せず、自然銀の独特な金属光沢(画像3,5)が輝くも古典標本ならではの渋い雰囲気が漂っています。最も特筆すべきことは結晶の魅力的な産状、優れた保存状態と際立つ5センチを突破したサイズだけでなく、人類の貨幣史にも計り知れない影響を与えたメキシコの大銀山地域から採掘され、さらにメキシカン鉱物の第一人者であるパンチナーコレクションからの歴史的な古典髭銀標本です。パンチナーコレクションオリジナルラベル、アーケンストーンラベルが付属し、密封ケースにて発送致します。
(2024年 5月 5日 18時 48分 追加)