【深和】水野渓雲斎 書幅「慶應元（1865）年大宰府楠公祭 三条西季知祭文」慶應三（1867）年 真筆（七卿落ち 公卿 久留米藩 幕末志士）
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【深和】水野渓雲斎 書幅「慶應元（1865）年大宰府楠公祭 三条西季知祭文」慶應三（1867）年 真筆（七卿落ち 公卿 久留米藩 幕末志士）
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慶應元（1865）年五月廿五日、三条西季知が楠木正成の霊前に献じた祭文を二年後に浄書したものです。「一すぢのみちを踏ずば桜井の さとの梢もなにかわかれむ」と、南朝再興という大義名分に尽くした正成を悼むものです。
楠公祭は水戸学に影響を受け天保学を興した真木保臣（真木和泉）が、生前正成の命日五月廿五日に毎年その功業を顕彰して行った儀式で、幽囚、脱藩の苦難にあっても欠かさず行ったことで知られます。保臣は七卿落ちに随行し元治元（1864）年に防府で楠公祭を挙行した後、禁門の変に参加し戦死したため、遺された三条実美ら五卿が水野渓雲斎らと共に楠公祭を挙行しました。
その後慶應二（1866）年にも楠公祭が行われ、慶應三（1867）年五月には渓雲斎が五卿の留め置かれた大宰府旅館（現・太宰府天満宮延寿王院）にて本作を認めたことが分かります。渓雲斎は側近として五卿に随行し三条実美らの信任を受け新政府にも出仕しますが、大村益次郎暗殺の首謀者とされた大楽源太郎を久留米藩が匿ったことが原因となり免官、志半ばで青森弘前で獄死することとなります。
しかしながら志士による楠木正成への熱烈な崇敬は国家的な祭祀を求める機運を呼び、明治天皇の勅命により明治5（1872）年の湊川神社創建へとつながりました。「今楠公」と呼ばれた真木保臣の篤志が明治新政府に受け継がれていく過程を示す、貴重な史料です。
◆水野渓雲斎
幕末の武士。筑後久留米藩士。真木和泉らと天保学連を結成して藩政改革をはかり,嘉永5（1852）年獄につながれる。文久3（1863）年ゆるされて京都にいき,八月十八日の政変で七卿落ちに随行。維新により藩大参事となるが,大楽源太郎をかくまった罪で終身刑をうけ,明治5（1872）年没、50歳。通称は丹後。号は渓雲斎,鴻州。
◆三条西季知
幕末期の公卿。三条西実勲の子。母は三条実起の長女。嘉永3（1850）年参議。正二位。尊王攘夷を主張したが,八月十八日の政変で三条実美らと長州にのがれる(七卿落ち)。慶応3（1867）年京都にもどり,翌年新政府の参与,ついで権大納言。明治天皇の侍従として歌道を指導した。1880年没、70歳。
〔本文〕
慶應元年五月、於筑前旅館、人々相共祭贈三品羽林正成卿之時、敬述心緒之詞並歌
久堅の天の極、あら金の地の限、てり通るべきは、其かみ贈三位中将正成卿の、天皇に仕へ奉りて、雄々しき真心の二なく、且は其功にこそ有なれ。今この事、委曲にいはむとも、あなにかしこければ、更に言はず。爰に、去年五月廿日あまり五かの日、実美ら周防国に在て、御霊を祭り侍りぬ。今年慶應はじめのとし、筑前国にありて、同じく今日なむ、御霊を祭り侍る、抑此大倭国は、天津神祖の道のまにゝゝ、大王のしらし給ふ所にして、言さやぐ他国の、及ぶべくもあらざりけり。かゝるに、今の代のありさま、渡津海（わだつみ）の浪漂ひ、或は群山の雲、野原の霧の迷へるに似たり。然れば大君の深く念ひ煩せ給ふになむある。己等数ならずといへ共、朝に彼を愁ひ、夕に是を嘆かずといふ事なし。早く天の下安く平かに、国の風正しく、真直に、八島の外までも吹きわたりて、彼ただよへる波、迷へる雲霧をも、やり払ひて、天津日のいよゝ明らけく
、照りかゝよひつゝ、懸まくもかしこき上つ代の、厳し大御稜威も振ひ起り、雄々しく直き手ぶりにも、たちかへらむことを、乞願申にこそ、
一すぢのみちを踏ずば桜井の さとの梢もなにかわかれむ 季知
慶應三年卯五月 於筑前大宰府 久米源正名謹書（印）
旅館之下為同志
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