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心の危機におそわれたとき、人はどうやってきりぬけていけばいいのだろうか。学ぶとはどういうことだろうか。幼いころの父親の死、戦争体験、家計をささえた少年期の仕事、血となり肉となった読書体験など、さまざまな経験を通して開高健がかたる人生の教育論。
レビューより
没後30年過ぎた開高さんの本をすべて読んだわけではない。小説のたぐいはほぼ読んだ記憶である。
が、エッセイ集などに未読の本もあるから、なにか読みたいと探したのが本書『知的経験のすすめ』であった。
「汝の一生をふりかえり、教育なるものの意義をその経験よりして考えよ」と、東京新聞より口説き落とされてコラムとして連載された『私の大学』というエッセイを集録して刊行されたのがこの本である。
58歳という若さで早世した開高さんのこのエッセイ集は、開高さんが他界する数年前に書かれたものだと思えば、一入感慨深く読んでしまったのです。
「国民全員が戦闘員で、非戦闘員は一人もいないし、いたとしたら非国民なんやから、そしたら赤ン坊がオッサンといっしょに焼き殺されても当然や。文句はいえない。となったら、いずれ日本人みんなが焼き殺されるわけやな?」
「げんにそうなりつつあるやないか」
「ああのね、オッサン。わしゃかなわんよ」
「」内の転載は、昭和20年春から夏にかけてB29による空襲が苛烈になった時期、開高さんが友人と交わした会話の一部である。(P97)
この眼差しはなんなんだ?
老年の声がかかる男の眼差しが、どうしてこうも悩ましいのか。
されど、この眼差しは、ベトナムで眼前で砲弾を浴びた幼児が砕け散り、肉片と化す瞬間を
見つめたのです。諸外国の内乱・戦地に赴き、極限の人間を見つめた眼差し。
僅かな食い物の為に大人が子供を殺める、戦後の日本の阿鼻叫喚地獄をこの眼差が
見つめていたのです。
街頭や路地で帰還兵が野垂れ死に、ウジに翻弄されているのに、誰もが通り過ぎる
日本の戦後の地獄を見つめたのですね。
こんな日本人がいるのでしょうか?
稀有の人が奏でる金言は現代社会に生きる日本人にとって必読です。