『1937年のエリザベート・コンクールでオイストラフと覇を競ったヴァイオリニスト』というイントロでいつも紹介される名匠オドノポソフ、戦前のコンクール結果を経歴紹介の冒頭のクリシェとされていることには本人もさぞ辟易していることだろう。戦後はコンサートホール・ソサエティレーベル専属となり主な協奏曲については殆ど録音しているが、同レーベルがマイナーな会員組織であるうえ、その多くが10インチのモノラル盤で録音と盤質が十全でないこともあって、彼ほどのヴァイオリニストなら当然受くべきと思われる評価が与えられてこなかった。事実、彼が85歳を迎えた1999年にICRC(Summer 1999)に”The mean fiddler"と題したオドノポソフに関する特集記事(by Stephan Bultmann)の冒頭のくだりにもそのことが述べられている。
”One of the last representatives of the golden age of violinists, Ricardo Odnoposoff, celebrated his 85th birthday in February. According to the late Los Angeles critic and violinist Henry Roth, Odnoposoff was one of those great fiddlers who did not enjoy the career he deserved."
当出品LPには《”Castle in Castile”:カスティリャの城郭》”(註:カスティリャは中世イベリア半島の王国)のタイトルと、ジャケット写真にそのタイトル通りの威容を誇るスペインの城郭、我が国のディズニーの城のモデルにもなったアルカサル・デ・セゴビア(Alcazar de Segovia)、の写真が使用されているが、その企図というべきものをライナーノーツの『この作品にはスペインのロマンスを夢見てカスティリャの城郭の幻想を抱く者たち誰もが、動的な情感で胸をときめかせざるえ得ない音画が眼前に広漠と拡がるのだ』とのくだりから推察することができる。併収されたリムスキー・コルサコフの《スペイン奇想曲》は、当時一世を風靡したスペイン趣味という共通の歴史的背景を共有し、スペイン風の主題によるヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲として構想が練られた作品であり、ラロのスペイン交響曲のオッドサイドを占める作品に相応しい。