流石に昨年のマスタリングは93年盤CDなどと比べるとまるで別次元、技術の進化によって非常に骨太で力強い仕上がりとなっていて、それでいてアナログチックなウォーミーさが保たれている点はお見事。特にポールのベースを中心にアルバム「WILD LIFE」を楽しみたいのであれば、昨年のリマスターは打ってつけと呼べる仕上がり。パッと聞き比べた感じですと、再発されるDCCバージョンが頼りない風に映ってしまうかもしれない。逆にアルバムB面の「Some People Never Know」や「Dear Friend」といったアコースティック、あるいは静かな演奏における生々しさ、親密感などはDCCバージョンに大きな魅力があり、その違いは一聴して解るほど大きなものなのです。
その点CDにおけるマスタリングから生まれる音質の違いというのは、レコードとは比べ物にならないほど聞き比べが簡単で楽しめるのです。ジミー・ペイジは1990年に初めてレッド・ツェッペリンのリマスターを手掛けた際、その違いについて「同じ絵のフレーム(=額縁)が違うんだ」と説明していましたが、レコードやCDアルバムのカッティングやリマスターの結果から生まれた音質の違いというのは、正にそういうこと。その点ビートルズのアルバム「RUBBER SOUL」のラウド・カットと呼ばれるLPを小細工なしでCD化し、なおかつ簡単に楽しめるようにしてくれた「THE GOLDEN ANALOG EXPERIENCE」などは今なお非常に画期的なリリースであった(むしろ時代を先駆けたかのような)と言えるのではないでしょうか。