彼の本分はギタリストであり、ソングライターであり…といった感じで、先ほど挙げたStevieやセルメンのバックでは、手がたい裏方の仕事をこなしていました。Stevieの最高傑作とも言えるアルバム『Songs In The Key Of Life』において、「Saturn」という曲を共作(歌詞を提供)するなどもしています。
センベロの魅力は何と言っても、渡り歩いてきたフィールドの多彩さからくる、あらゆるジャンルをきれいに混ぜ合わせたソングライティングにあります。このアルバム『Caravan Of Dreams』においても、R&B的な泣き・AOR的な爽やかさ・民族楽器の無国籍感…これらが実に「さりげなく」融合された楽曲を味わうことができます。あっさり風味で聴きやすいのに、妙にスケールがでかい。
ポップでいてクセの強い、僕のお気に入りナンバーが、10.「The Cure For Love」です。あちこちに散りばめられた民族打楽器の間を、アナログシンセサイザーが通り抜け、それをギターのアルペジオで編み上げるといった趣のサウンドが特徴的で、砂嵐の吹く砂漠を旅しているような不思議な感覚です。
センベロの歌声は少し鼻にかかりながら、「百万の涙を流し、千年の時を超えて、惑星を渡り歩いても、誰にも愛の癒し方(The cure for love)は見つけられない…」と高らかに悟りを開き、ずっしりと歌い上げています。就職に不利だなどとふざけた事を言うおじさんが作った歌とはとても思えません。かなり精神世界へ飛んで行ってますが、この達観した世界こそ、まさしくセンベロの本質・魅力ではないかと思います。文字通りの「職人」による、90年代の好盤です。
Michael Sembello Caravan Of Dreams