収録された楽曲は二つの作品からのものであり、そのうちの一つ『Fata Morgana』(1987) は、現代物理学の宇宙論にも関連する女性の神聖性をテーマにした神話を綴るエレクトロ・アコースティック・オペラ作品で、もう一つの『Inori to the sacred prostitute』(1993) は言語、文化、人種、新年、宗教の多様性を参照しつつ「家母長制」の価値観を説くもの。作曲家/インタープリターであるだけでなく、20世紀のありとあらゆる前衛芸術・文化・言語に影響を受けるマルチメディア・アーティスト兼ストーリーテラーであるというジョシーの唯一無比な世界観を結実させたものといえるだろう。 Side-A に収録された "Oniric" は『Fata Morgana』からのもので、肉声と電子音をリアルタイムで統合していくような楽曲で、健康上の問題を契機にピアノからシンセサイザーへと没頭していったジョシーによるYamahaTX、DX7シンセの演奏が全編にフィーチャアされている。続く "O Contar de Uma Raga" 、さらには Side-B に移り、『Inori to the sacred prostitute』の収録曲 "Raga na Amaznia" という二つのラーガ (=インド音楽における旋法) が収められ、ラストに同じく『Inori』から東洋思想とフューチャリズムが入り混じる"Solaris"を収録。 本作のキュレーターであるパウロ・ベトは、本作制作の焦点を「音楽を定着させる作曲と即興などの不確定要素の間に横たわる限界への実験・挑戦」にあるとしている。ジョシーは自身の著作『Dialogue with letters』のなかで「シュトックハウゼンの "Mantra for two pianos" は彼の作品のなかでもっとも私を魅了するもので、即興のように聞こえながらも、厳密に決められたある種の性質を持っています」と語っている。本作に収録されたラーガはそういった観点から彼女が取り組んだ楽曲なのである。また実験音楽についても「ジョン・ケージは、実験という言葉は、その成功または失敗に関して、将来の判断の観点から行為を説明するべきではなく、結果が不明な行為に適用されるべきであると述べた」と先述の本のなかで語る。「キャリアとして音楽を考えていません。これは運命です。私は音楽を通じて自分自身を表現しています。それは私の声、私の叫び、私のうめき声なのです」 はじめ本作は『Extratos Onricos』というタイトルで発売される予定だったが、ジョシーの助言により『Raga na Amaznia』(アマゾンのラーガ) に変更されたのだという。70年代から80年代にかけて環境問題に焦点を当てたコンサートやイベントを数多く発表してきたこともあり、アマゾンをはじめとする環境問題を現代に警鐘するタイトルになっている。 https://discosnada.bandcamp.com/album/raga-na-amaz-nia