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前方後円墳の時代 (日本歴史叢書)
1993年- 前方後円墳集成・5冊 補遺は欠 部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。
前方後円墳は、日本考古学におけるもっとも重要な研究対象の一つとして、これ まで長い間、多くの研究者によってさまざまに論じられてきた。ある人は、その巨 大な墳丘や隔絶した内容に注目して、これこそ日本における階級社会の成立を示す ものであると論じた。また、他の人は、弥生時代の末に北部九州の勢力が東に進み 今の近畿地方の中枢勢力を打倒し従属させた記念碑として築造されたものであると 考えた。また、朝鮮・中国・モンゴルなどの墳墓を例示して、その外形は外地から の影響によって生れたのかもしれないと想定する人も現れた。それらに対して別の 人は、前方後円墳はほんらい首長霊の継承儀礼の場であり、畿内中枢勢力の主導の 下に諸首長共通の埋葬祭式として作られたもので、むしろ畿内大首長を中心とする 首長間の「同祖同族」的政治関係を示すもの、と考えた。
一方、前方後円墳の変遷についても幾多の試案が出されてきた。喜田貞吉・高橋健自・浜田耕作・後藤守一・梅原末治らの先学の仕事の上に、戦後いち早く小林行雄は基本的な編年観を提案した。くわえてその後、新しい資料的発見・研究がなされ、また理論的研究も進み、ようやく畿内を軸とする各地の前方後円墳の変遷が具
体的に論じられるようになってきた。その間、墳形・埴輪・棺・柳・室・副葬品な どの地域的研究・構造研究も著しく進み、各地とも、単なる変遷だけでなく、その 出現・終末についての実体究明を続け、最近になってようやく日本全土の前方後円墳に通ずる統一的見解を樹立しようとする動きさえみられるようになった。
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しかし、考古資料としての前方後円墳の複雑な性格、その実体調査や発掘のむず かしさもあって、各地ごとの実体はかならずしも他地域には十分には伝わることが ない。具体的にいうと、例えば巨大な墳丘や内部構造をもつもの、特異なまたは多 量の埴輪を出土したもの、顕著な副葬品が発見されたものなどを除いては、ある地 域の前方後円墳の情報が全国の研究者に伝わることはきわめて稀である。このこと は、前方後円墳の全体的研究、特にその政治史的研究を停滞させるとともに、各地の比較研究を通じての前方後円墳論の活発な展開を妨げている。例えば日オ 内でもっとも数多くの前方後円墳が作られたのが千葉県であり、それはな 2.5倍、京都府の約6倍の数であるという事実の解明は、これまでの理解を 変え、前方後円墳とはなにかを考える一つの手掛りとなる。
1984年岡山と大阪に住むそれぞれ数人の古墳研究者があい寄り、これらの点につ いて討議を重ね、前方後円墳の全国集成の重要さの認識を強めた。研究・討議の進 む中で、1986年から3年間科学研究費を交付されるとともに、共同研究者は全国的 に拡大し、百人を優に越える人々の協力を得、集成のための作業を進めた。その研 究・作業状況については、第1部第1章・第2章においてやや詳しく述べられス が、ここでは、直接間接にこの集成の仕事に寄せられた多くの人達の努力と好意に 心から感謝するとともに、本集成が前方後円墳時代の研究にいささかの寄与を果す ことを願ってやまない。
本東北・関東編のうち関東の編集については、当初から久保哲三さんが担当され 鋭意努力を傾注されたが、1989年5月、志半ばで逝去された。心から哀悼の意を表 したい。久保さんの遺志は、杉山晋作・車崎正彦の両氏によって引き継がれた。 「本書の編集・刊行に当たり、山川出版社とくに内藤茂氏および鶴崎信夫氏の尽力 をいただいた。また、原稿の整理・検討などに関し、大谷晃二君、犬木努君の助力 を得た。記して感謝する次第である。 なお、本書は文部省研究成果公開促進費の交付を受けて刊行された。
1993年9月15日
前方後円墳研究会代表
近藤 義郎
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