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昭和56年 198P 部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。
宗政五十緒
本邦において、本を煎じてこれを飲用する。ということはすでに 古代から始まっている。しかし、朝茶をして、これを推遊の一技と をしたのは、近世中期に、こるといってよい。通常これは、売茶翁 高遊外をって祖としている。売茶翁は肥前速池の産、若くして黄 業宗の僧となり、老年にしてを罷めた人である。彼の煎茶は黄檗 より出で、更に長崎の清人より学ぶところがあったという。このこ とは、売茶翁以後、京都・大阪を中心として都市人たちに喜ばれ発達したこの雑技が明オ・清代の中国文化にその源をもっていることを示している。
新茶の雅技は、ただ茶を出して客に供し、あるいはまた主も自らこれを飲む、ということに終わるものではなく、そこにひとつの小宇宙を構築する業である、といってよい。湯水、茶具、炭具、飾り、席、、更には庭、と、客人と主人との人間を中心にして、あたかも天上に諸星が配置されているように、それらが時間と空間とに所定の座を占めて、時に前に、時に動に、変易してゆく。この小宇宙を売茶翁以後、更に充実せしめた人は近世の文人たちである。大枝流芳・ 本村報度堂・上田秋成、つづいて、田能村竹田・頼山陽などの人々である。
煎茶の諸器具や席飾りはこれによって知られるように、本邦文人の趣味に合致している。近世中期に友人が文化史に出現し活動した ことは、当時、幕藩社会において、都市中間層が文化の第一の担い手となり、新しい芸術・学問の創造者となったことを意味している。煎茶の雅遊が今日においても、清雅を情趣としてただよわせているのはそのゆえである。彼ら文人たちの想像力は、やがて現前する近代の春を招来した。煎茶道が成立して、これが近代の都市人の嗜好 に合致し、もてはやされるのは、前茶の雅遊の形成した小宇宙が、 近世においてすでに、近代人のヒューマニティをその中に具えていたからなのである。煎茶の諸器具が、今日の生活においても生きて働いているゆえんもまた、ここにある。
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