モロッコ東部のオリエンタル州に位置するトゥイシット地区は北アフリカ有数の鉛・亜鉛の鉱山地帯で、ミシシッピーバレー型鉱床と呼ばれるこのタイプの鉱床は石灰岩、苦灰岩などの炭酸塩岩層を交代して層状に産する鉛・亜鉛鉱床で,北米のミシシッピー川中流域ではじめて発見されことにちなんで命名された低温熱水鉱床です。低温熱水由来の特徴として方鉛鉱や重晶石、蛍石の巨晶が多量に伴い、また鉱体の鉄含有量が低く、主産鉱物である閃亜鉛鉱は透明度の高い黄褐色産状に呈します。方鉛鉱、閃亜鉛鉱、白鉛鉱などの鉛・亜鉛鉱物以外に藍銅鉱や孔雀石などの銅の炭酸塩鉱物も産出したが、トゥイシット地区は観賞用鉱物標本の世界で名を馳せるのは硫酸鉛鉱の存在です。鉛の二次鉱物である硫酸鉛鉱は原産地イギリスのアングルシー島に因んで命名され、鉛鉱床の酸化帯に見られる鉱物で、通常は無色に近い不透明な塊状あるいは皮膜状に呈し、自形結晶の産出は稀です。トゥイシット産硫酸鉛鉱は比類なき透明度と極めて濃厚な黄金の色合いで世界最高品質と公認されるが、1970年代末から1980年代初頭にかけの短期間採掘を経て絶産し、2000年代にすでにクラシック標本として数えられます。こちらの商品はトゥイシット地区からの硫酸鉛鉱群晶標本、淡黄の結晶ではなく、濃厚な黄金の色合いを持つ硫酸鉛鉱の極美群晶標本で、1960年代から1990年代に活躍し、ツーソンショーにて数回のサムネイルケース受賞歴を持つ上の世代のトップ級コレクターであるウィリアム・デイヴィッド・パンチナー氏から引き継いだサムネイルコレクションです。パンチナー氏は天文学を研究する学者で、鉱物の領域では特にラテンアメリカの鉱物を熟知し、1987年に著書【Minerals of Mexico】を出版しました(画像8)。パンチナー氏からメキシコ鉱物だけでなく、現在では見かけない古い時代の鉱物市場に流通したブラジルやペルーなどのラテンアメリカや北米、アフリカからの古典標本も引き継がせていただきました。方鉛鉱の母岩が酸化し形成された二次鉱物である硫酸鉛鉱の典型的な産状で、比重の高い鉛系鉱物特有な重量感が感じられます。最も特筆すべき点はやはりこの濃厚な黄金の色合いで、絶産してから50年近く経た今では硫酸鉛鉱の淡黄色結晶すら流通が少なく、濃色結晶はなおさらのことです。上質な色合いだけでなく、透明度も大変優れた(画像6,7)群晶は典型的な斜方ブレイド産状に整い、現在では得難い黄金の硫酸鉛鉱極美群晶標本です。パンチナーコレクションオリジナルラベル、アーケンストーンラベルが付属致します。